<コラム27> 2017.5
渡邊 忠
そもそもベイシック・エンカウンター・グループ(BEG)に私がコミットしたきっかけは、所属していた企業体の研究所の研究の一環として、硬直化した職場組織の風土を柔軟でオープンなものにする「組織開発」の方策の一つとしてでした。ある先輩の誘いで、発足間もない人間関係研究会のワークショップに参加し、その自由で柔軟で多様性を認め合うスピリットの中で、見過ごしてきた自分自身と向き合い「我が意を得た」思いをしました。しかしその後、BEGを企業内教育として導入したものの、研修に要する時間の割に、多様な職場から参加した個人の気づきがそれぞれの現場に帰って活かせているのかという“費用対効果”の壁に阻まれることに。
そこで、人間関係研究会でファシリテーション体験を積むとともに、ある1つの職場の風土をBEGのスピリットとファシリテーション・スキルを活かして変える道はないかを探ることにしたのです。私にとってのBEGの“効用”を体験的にふり返ってみると、対話の中で自分と他者のものの見方(価値)、それに連動する意図や期待、そして感情の動きに気づき、意識できるようになることがあります。それは、自他を相対視することであり、他者との関係で、金子みすゞの詩の一節「みんなちがって、みんないい」、今で言うダイバーシティ&インクルージョンのスピリットにもとづく信頼感覚と自己肯定感を培うことでもありました。
時代は高度経済成長期、バブル景気とその崩壊期などを経て、職場では人が減らされ業務量が増えて多忙になるとともに、ICTの急速な導入によって職場の人同士の直接的なコミュニケーションの量と質が低下しました。それは、職場のタテヨコの関係でお互いが何を考え、どうしようとし、どんな気持ちになっているかが分かり合えないことであり、不信と不安が増大するとともに、働き甲斐、居甲斐、働きやすさなど見出しにくい状況をつくっていると思われました。
前述の“効用”は、このような状況を改善する一助になると考え、毎日顔を合わせる比較的少人数のグループ(ファミリーグループ)で、いわば“深く丁寧な”コミュニケーションをする場を意図的に作ることにしました。具体的には、1回3,4時間のミーティングを業務に支障の少ない時間帯と間隔(月1回など)で継続的に開催し、話題を職場の運営や風土などで疑問に思ったことに限定し、地位や立場を一時棚上げにして自由にホンネを語り合い、その中で上記の“効用”を追求する場としたのです。
ただし、その実現には、職場トップが職場風土を改善したいという課題意識をもち、このミーティングに参加することが大前提。また、何らかの利害関係がある上司・部下、同僚の間で自由にホンネを語り合えるには、BEG同様、安全な雰囲気づくりのための“時間”と“ファシリテーター”の存在が必須です。そのファシリテーション・スキルは、ムードメーカーであり、通訳であり、交通整理係であり、仲人であり、“私らしさ”です。
企業体の複数の職場でこの方法によるアクションリサーチを行い、職場の問題という話題限定であってもお互いが何を考え、どうしようとし、どんな気持ちになっているかが共有されると、お互いのつながりが強まり、日常業務がスムーズになり、職場ストレスも軽減されることが示されました。
皆様にも、個人参加の“ストレンジャー・グループ”のBEGだけでなく、職場や地域の“ファミリー・グループ”でこのようなミーティングを開催することにチャレンジしていただければと思います。そのファシリテーションは、BEGのファシリテーター経験者なら十分果たすことができるでしょう。