<コラム35> 2020.4
松井 幸太
エンカウンター・グループ(以下、EG)は、カール・ロジャーズに端を発し、その形態は、いわゆる「セッション」と呼ばれるものだけでなく、コミュニティ・ミーティングやスモール・グループ、インタレスト・グループといった時間もあり、中にはアクティビティを伴うものもあったと言われています。
不勉強な私は、そんなこともつゆ知らず、5年程前より、自然体験活動を通した集中的なグループ体験を企画、実施してきました。具体的には、2泊3日の間、山の中でテント泊や野外炊事といった自然体験活動を生活のベースとしながら、EGっぽいことを行ってきました。
この活動は、私が大学生時代、野外活動と心理学を学んでいた頃より、思い描いていたものでした。当時、野外活動を通して心理臨床的アプローチ(不登校児童生徒の旅キャンプ)を実践されている先生がおられ、私も強く刺激を受けました。それ以降、私は野外活動による心理面への影響(成長)に大きな期待を寄せ、いつかプログラムを実現させたいと思い描いていました。
この思いが、現実のものとなってきたのが5年前、とある学生に背中を押される形で、試行することができました。しかし、当初からEGの体を成していたわけではありませんでした。その頃の活動は、野外活動(野外教育)という視点が強かったため、プログラム中心であり、人間中心ではありませんでした。ファシリテーターである私のスタンスも、この5年の間に変化してきているのを感じます。
その過程で、大きな影響を受けたEGがあります。まず、湯布院エンカウンター・グループです。セッションの中で、私が自身の活動について話題にすると、ファシリテーターの村山先生より「続けてやってみたらいいんじゃないか」と背中を押していただきました。さらに後に、スロー・エンカウンター・グループや、ファミリー・グループと呼ばれるグループがあることを知り、セッションという枠にとらわれない自由さに、私の本能も活性化されました。以後、既定概念にとらわれず、「自分らしく」、「こうやりたい」をそのまま形にしたいと思うようになっていきました。一方で、メンバーの安全・安心を確かなものとするため、BEGのファシリテーターとしての成長にも、より意欲的にもなっていきました。その意味では、有馬研修会でのグループ体験は、畠瀬先生のお膝元の熟練ファシリテーターの姿に、自分自身のファシリテーター像を重ね合わせ、ファシリテーターとしての私の成長を後押ししてくれました。
このように、まだまだ発展途上の活動ではありますが、最後に、なぜ自然体験活動なのか、その特徴について2点だけ触れておきたいと思います。まず一つ目は、自然体験活動を通したEGでは、人が「生きる」ということに直面するという特徴があります。複雑化した今日の社会生活の中では「私を生きる」ということが難しくなっているのに対して、自然体験活動では、不便な環境だからこそ、そこに主体的に生きている私を感じられるような気がします。二つ目に、生きていくための寝食に関してメンバーと協働することによって、さまざまな刺激を受けることも多く、その後のセッションでの言語的なやりとりが、より活性化するという特徴があります。これまでの私の実践では、EGにおけるグループの展開(村山・野島,1975)の段階Ⅰ~段階Ⅳの展開が比較的早く進むような印象ももっています(松井,2020)。まだまだ成長過程ではありますが、今後も「森のエンカウンター・グループ」を継続していきたいと思います。
<引用文献>
松井幸太 2020 自然体験活動を通したエンカウンターグループの実践―参加者のふりかりと自己効力感および自己成長性からの検討― 研究紀要, 21, 69-80.
村山正治・野島一彦 1977 エンカウンター・グループ・プロセスの発展段階 九州大学教育学部紀要 (教育心理学部門), 21 (2), 47-55.