<コラム45> 2023.03
ファシリテーター研修グループ
松本 剛
個人面接では相談者と被相談者の役割は、「相談する人」と「相談される人」というように明確に区別できるが、ベーシック・エンカウンター・グループ(BEG)ではファシリテーターを含めてメンバーの役割は多様である。メンバーは、時として他者に関わられる立場にもなれば、他者に関わる立場にもなる。このようにグループにおける役割や関係性は流動的であるが、BEGでは、そのようなメンバー間に生まれる流動性が相互交流をより促進する要素となっている。そして、ファシリテーターもまたそのような関係性の中にある一人としてグループに関わっている。これらの構造上のありかたから、BEGにおける関係性においては、個人面接以上にファシリテーターの多様なありようが問われることになる。
筆者が長年取り組んできたファシリテーター研修グループ(松本,1999.2011.)は、ファシリテーターとしての自らのありようをふりかえるために、グループの参加者が相互にファシリテーターを経験して、その経験を相互にふりかえる研修BEGである。前半でメンバーの中からファシリテーター・ロールをする人を選び、後半でファシリテーター・ロールを担当した人の体験に焦点づけたリフレクションのセッションを行う。
BEGは「場の安全」を大切にすることを基本とするものであり、BEGの促進を学ぶ場もまた安全を感じられるものでなければならない。リフレクション・セッションでは、スタッフ(主催者)がファシリテートし、前半のグループ体験でのファシリテーター・ロール体験者が感想・経験したことを話し、気になる場面やメンバーに聞きたいことを全員に伝えて、メンバー全員でそれぞれにこたえながら、ファシリテートについて考える。その際、スタッフはグループ・プロセスに沿いつつ、ファシリテーターの気持ちの明確化を行ったり、メンバーが心残りに思っていることに関わったりすることが多く、評価的にその場が進むことがないよう配慮している。
リフレクション・セッションの時間でも、BEGのありようが重視される場は継続され、メンバー相互の自由なやりとりが奨励される。それ故、リフレクション・セッションでは、スタッフの「ファシリテーターの批評者にならない場づくり」が重要である。つまり、ファシリテーター研修を進めるスタッフが「上から目線にならない」ことが重要であると思われる。所詮、スタッフの意見は「後出しじゃんけん」のようなものであるので、高飛車な態度でファシリテーター・ロールを担当したメンバーに接するなどもってのほかだと考えている。ファシリテーター体験グループは、あくまで参加メンバー全員による相互研修をその特徴としており、グループをふりかえり、検証していく作業は、ファシリテーターとして、グループにおける自らの援助者としてのありかたを捉えなおし、幅を広げていくグループ体験だということを忘れてはならない。
リフレクション・セッションでは、ファシリテーター体験者自身が気になったやりとりを基本として、グループのメンバーが考えてみたいと思われたやりとり、オブザーバーが観察したやりとりについて、グループ・プロセスを丁寧に見直しながらファシリテーターが自らをふりかえることができるよう進めることが大切である。スタッフにもとめられる第一の役割は、グループを批判的に見ることなく、そこにどのようなプロセスがみられたかをメンバーに伝え、メンバー相互でそれをどう捉えたかを話し合うことである。
グループにおいて自分自身の気づきを表出できるか否かは、発言しようとする人個人の勇気の問題だけでは決まらない。場に対して安全感を感じていなければ、それらを表出することはできないのである。「ここで表出しても大丈夫だ」とメンバーが思える「安全感」の醸成が大切であり、ファシリテーター研修グループでも同じことがいえる。
ファシリテーターは、グループを方向づけたり、「導いたり」はしない。それと同時に、メンバーよりも力(power)がある、あるいは、力があると知覚されるという事実に注意しておくことが肝要である。しかし実際には、方向づけやリードを行っている部分もある。その方向性は、「対等に関わることができる場作り」をめざすものでありたいものだ。ファシリテーター研修のありようも同じであると考えている。
松本剛,1999,ファシリテーター.研修グループ,(伊藤義美・増田實・野島一彦編 パーソンセンタード・アプローチ ナカニシヤ出版 149-160).
松本剛,2011, 継続研修としてのファシリテーター.研修グループ,『パーソンセンタード・アプローチの挑戦』 共著 (2011) 創元社(pp.295-307)