<コラム46> 2023.11

「移民」・「難民」としての経験をした一人ひとりとの出会いから感じること

                                          東口 千津子

「移民」・「難民」としての経験をした個人との出会いから感じたことを振り返ってみたいと思います。

メルボルンで暮らす友人から、先月、“It is terrible to see this war erupting. For Israel and also for the Palestinians.”というメールが届きました。彼女は20代の時にイスラエルのキブツでボランティア活動をし、イスラエル人のパートナーと出会い、結婚・出産し、数年後に離婚、メルボルンに母子で帰国しました。彼女の息子は、オーストラリア移住後も、生まれ育ったイスラエルと父親からユダヤ教の文化を受け継ぎ、アイデンティティが形成され、40代で生を閉じました。彼女はイギリスからオーストラリアに移り住んだ移民2世で、イギリスとオーストラリアの文化が自身のアイデンティティにより強く影響していると言います。70代となった今、いつも心に息子のことを想いながら、対立するイスラエルとパレスチナの双方に心を寄せながらメルボルンで静かに暮らしています。その後のメールでもイスラエル人とパレスチナ人の双方を深く想う彼女の気持ちが伝わってきます。対立する歴史を繰り返してきた双方が寛容でいられるあり方についてやりとりを重ねる日々、彼女の経験から語られる視点に学ぶことが多くあります。 1991年から1994年までの3年間、メルボルンに暮らした時に出会った友人たちの中には、多様な国で暮らした経験や多様な文化背景を持ち、メルボルンに移り住んだ人たちが多くいました。

 世界のさまざまな場所で起こるできごとについて友人たちの声を聴く時、かつてそれぞれが暮らしたことがあったり、家族や友人が今もその土地に暮らしていたり、その土地や文化、出会った人々や自身の経験から、アイデンティティが形成されるさまざまな影響を受けてきたことが伝わってきます。「移民」として育った友人たち一人ひとりの声を聴き続けると、どのように個人内文化が育ってきたのか、今何を感じているのか、私自身の中で少しずつ理解が深まるプロセスが進んでいきます。そして、一人ひとりのあり方から世

界を近く感じるまなざしを学ばせてもらっていると感じます。

 対立の歴史を繰り返すところに「難民」と呼ばれる人たちが生まれることがあります。(一社)blue earth green treesの「難民について」の勉強会(2023年10月21日)で、プロジェクトリーダーの岩﨑裕保さん(開発教育協会顧問)から以下のことを学びました。「1950年に『国連難民高等弁務官事務所UNHCR』ができ、1951年に『難民の地位に関する条約』ができ、1967年には『難民の地位に関する議定書』ができ、この二つを合わせた『難民条約」に、日本は1981年に加盟しました。2022年の日本の難民認定者は202人で、難

民不認定とされた人は1万人以上でした。2023年に成立した「改正入管法」では、難民認定申請が3回目以降となる申請者については送還が可能とされているのです。難民条約では、生命や自由が脅威にさらされる恐れのある国へ強制的に送還してはいけないという『ノン・ルフルマンの原則』があり、新しい法はそれに抵触します。』

 日本に住む難民申請中のクルド人家族の過酷な現実を描いた映画「マイスモールランド」では、幼い頃から日本で育った17歳のサーリャの日常が変化していく状況と心の動き、家族や友人や地域コミュニティとの繋がりが描かれています。サーリャは自分の居場所を探し、アルバイト先で出会った高校生聡太に少しずつ心を開き、クルド人文化についても語ることができるようになっていきますが、在留資格を失い、理不尽な社会と向き合うことになります。クルド人はトルコ・イラク・イラン・シリアなどの地域に暮らし「国を持たない最大の民族」と呼ばれています。トルコ政府は自治権を求めるクルド人を弾圧しているため、多 

くのクルド人が国外に逃れています。日本でトルコ出身のクルド人が認定されたのは過去一度きりで、家族や親族や同文化コミュニティのメンバーが就労を禁止されたり、健康保険に入れなくなったり、県外への移動が自由にできなくなったりする状況を見つめながら、子ども達の不安も大きくなっていきます。また、ふたつの文化、複数の文化を繋ぐ役割や多文化共生や多様性の豊かさを育てていく自身の力に本人が気づいていない場合でも、家族と日本社会を繋ぐ役割、親の所属するコミュニティと日本社会を繋ぐ役割を担うこと

もあり、個人として心に生まれる素直な気持ちを聴いてもらう機会を見つけられずに育っていく場合も少なくありません。

 入国管理局での長期収容も心身の健康を脅かす状態に繋がっています。社会課題として日本の入国管理局の仕組みを改善していくことと同時に、難民申請中の個人や難民認定を受けた個人が心を開いて気持ちを話せる人と出会っていけるように、さまざまな居場所をつくっていく必要を感じます。(一社)blue earth green treesの「種を蒔く人のお話を聴く会」というプロジェクトでは隔月で多様な分野で「種を蒔く人」をお迎えし、それぞれから学び続けています。毎年12月には国連UNHCR協会の方とUNHCR難民高等教育プログラムで学ぶ大学生のお話を聴かせていただいています。難民認定を受けて日本で学ぶ大学生は、さまざまな理由で難民となり日本に暮らしていますが、家族や自分自身が辛く苦しい経験をし逃れてきた母国のためにも、そこで暮らす子どもたちや若者たちの未来に役立つことができる自分になりたいと言います。また、難民認定を受けた日本にも何か役立つことをしていきたいと言います。個人としての葛藤や不安や悩みも語りながら、好きなことや得意なことや専門性を磨き、心を開くことのできる信頼で繋がる人との関係に喜びを感じているそれぞれの物語を聴かせてもらいながら、「難民」について考え続けること、「難民」が生まれない社会をつくるために私たちができることを考え、行動し続けることの必要性を深く感じます。PCA

の視点にも学び続け、個人・グループ・地域・コミュニティ・社会と出会っていきたいと思います。